2010年4月、京都府立医科大学に救急医療学教室が開講しました。背景には、医療技術の進歩と高齢者数の増加により救急医療の需要が増え続けていること、救急医療現場での医学教育の充実が求められるようになってきたことがあります。


大学の教室には、臨床・教育・研究の使命があります。私たちは、各専門診療科、周辺医療機関と連携し、附属病院で良質の医療を提供します。教育においては、系統講義、臨床実習、初期臨床研修を通じて、医学徒とともに救急患者さんに向き合い、医療の基本を伝えます。良き医師を育み、多くの地域で患者さんのために活躍してもらうことは大学の大きな役割です。それぞれの医師たちが、どのような専門診療科に進んだとしても救急の場面で最善を尽くせるよう、私たちは卒前・卒後の医学教育に取り組んでいます。同時に、当教室は救急科専門医の成長する場でもあります。救急医療を専門とすることに誇りを持ち、長く地域のために救急医療を担う仲間を増やすことも私たちの喜びです。


大学は、研究機関としての責務も担っています。より良い未来を迎えるための研究です。救急医療学は、自然科学としての側面ばかりでなく、公衆衛生学、疫学、教育学、心理学、公共政策学、社会学、経済学など多岐に渡る学問体系と密接に関わります。私たちは、大学院医学研究科として「救急・災害医療システム学」を研鑚します。救急医療、災害医療を多角的にとらえ、より良いシステムを提案します。


救急医療は、社会生活を支えるために整備される公共的な仕組み、基盤の一つです。警察が犯罪から、消防が火災から市民を守るのと同様、支えあいの仕組みとして、救急医療は突然の病気やケガから市民を守ります。


わが国では、国民皆保険制度と先人たちの努力のもとで、諸外国と比較しても高い水準の救急医療を多くの市民に提供するようになりました。しかし、その達成には財政赤字の先送りと医療提供者の過重労働・当直負担の増加が隠れています。現在の救急医療の提供方法は維持困難と考えるのが自然です。市民に不安を煽ることなく、医療提供者と市民が対立することなく、日本の救急医療システムが安定して安心を提供し続けられるよう、私たちは人材を育成し、仲間を増やし、未来に向かいます。

救急医療学教室 教授 太田 凡

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